ビジネスパーソンや公務員には基本的に定年があり、定年後の生活の柱として退職金を考えている人も多いと思います。
しかし転職すると退職金はもらえるのか、もらえた場合でも損してしまうのではないか、そんな心配を抱えてしまうのではないでしょうか。
退職金は日本企業特有の制度で、海外ではあまり見られない制度です。
退職金は終身雇用制度という日本独自の労働慣習に基づく制度で、一社で定年まで勤めあげた労に報いるという面もあり、転職が増えてきた昨今の日本の労働環境とマッチしなくなりつつあります。
この記事では転職の場合退職金はどうなるのか、損してしまうのか、年代別の退職金相場と退職金にかかる税金について、社会保険労務士資格を持つ大手企業の現役人事部管理職が解説します。
転職すると退職金は損する?
結論からいうと、転職で退職金が損するというケースはあります。
数十年前から継続している一般的な退職金制度の場合、退職金の額は勤続年数が長くなればなるほど大幅に増加する仕組みとなっています。
これらの退職金制度は公務員の退職金制度を参考にしていて、金額の算定方法は以下の数式を元に設計されています。
「退職金=基本額(退職日の本給等×退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+調整額」
定年退職よりも転職などの自己都合退職のほうが「退職理由別」の乗率は低くなり、「勤続期間別支給率」も勤続年数が20年を超えるあたりから大きく増加します。
また、勤続年数が数年未満の場合は退職金が支給されない制度もあります。
このため、入社して数年勤務してキャリアアップのために転職するというキャリアプランを描く人には、昔ながらの退職金制度は合わなくなっているのです。
新しい退職金制度として「確定拠出型年金」などがあります
30代の転職で退職金はいくらになる?年代別退職金相場
退職金は企業規模や業界別、地域別で変わります。
基本的な金額として東京都労働相談情報センターによる「中小企業の賃金・退職金事情」調査を紹介します。
上記の金額は転職の場合である「自己都合退職」の退職金です。
解雇されたり定年退職の場合である「会社都合退職」の場合は数十万円上乗せされます。
公的退職金制度・中退共「中小企業退職金共済」
「中小企業退職金共済」いわゆる中退共は中小企業の多くが加入している公的な退職金制度です。
企業が従業員一人一人に掛金を積立し退職時に退職金が支給されます。
掛金の一部を国が補助し、税金も優遇される制度で全国で37万社が加入しています。
「中小企業退職金共済」略して「中退共」の掛金に対する支払われる退職金の割合のグラフです。
中退共では入社して12か月までは退職しても退職金はもらえません。
さらに入社12か月から24か月までは掛金よりも退職金は少なくなります。
一方で42か月(3年6か月)からは掛金よりも多く退職金がもらえるようになります。
つまり中小企業の多くが加入している中退共では、少なくとも入社42か月を経ないと退職金が掛金よりも多くならないのです。
中退共の掛金は事業主(会社)がかけるので社員の持ち出しはなく社員に損はないのですが、制度設計の考え方として短期での転職は想定してないと思われます。
転職でもらえる退職金と税金
退職時に受け取る退職金には「所得税(プラス復興特別所得税)」と「住民税」がかかります。
退職金の受け取り方は一時金と年金がありますが、一時金として受け取る場合について解説します。
退職金を一時金で受け取る場合は税金が優遇されます。
退職金に課税される「所得税」の計算方法
退職金にかかる「所得税(プラス復興特別所得税)」を計算するには、まず支給された退職金のうち課税対象となる金額「課税退職所得金額」を計算します。
「課税退職所得金額」とは、退職金額から勤続年数に応じた「退職所得控除額」を差し引いた残りに2分の1をかけた金額です。
課税退職所得金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×2分の1
「課税退職所得金額」に所定の所得税率をかけて、控除額を差し引いた金額が所得税額となります。
所得税率および控除額は、税法で「課税退職所得金額」ごとに定められています。
(1)退職金の所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額
「課税退職所得金額」を計算するときの「退職所得控除額」は、勤続年数が20年を超えると計算式が変わります。
勤続年数に1年未満の端数がある場合は端数を切り上げ年単位にします。例えば、「10年と1ヵ月」の場合、端数切り上げで「11年」です。
復興特別所得税は上の計算式で算出された所得税額(基準所得税額)に2.1%の税率を乗じて算出できます。
(2)復興特別所得税額=退職金の所得税額×2.1%
退職金に課される「住民税」の計算方法
「住民税」は「所得税」で計算した「課税退職所得金額」に住民税率をかけた金額です。
住民税率は、課税退職所得金額に関わらず、一律10%(都道府県民税4%、市区町村税6%)です。
転職でもらえる退職金と税金 まとめ
1 転職すると退職金が損するケースがある
2 退職金の相場は年代が若かったり勤続年数が少ないと低くなる
3 退職金を一時金で受け取ると税金の優遇措置がある
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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