この記事は新卒と中途採用で内定者の前職調査はどこまで可能なのか、そして調査結果で内定取り消しなどは可能なのかを実務から解説します。
中途で人材を募集するとき、業務経歴書、履歴書、エントリーシートなどに経歴を記入してもらいます。
しかし簡単な業務内容は書いていますが、どのような働きぶりだったのか、どのような成果をあげていたのか、そして本当の退職理由はなんだったのかは書類からはわからないです。
優秀な人材が応募してくれれば嬉しいのですが同時に「どうしてこのような優秀な人が転職するのか?」という疑問が生じてきます。
その場合、本当の退職理由や実際の働きぶりなどを調べる「前職調査」をかけたくなります。
実務の現場で「前職調査」は可能なのか、可能であればどこまで許されるかを社会保険労務士資格を持つ現役人事部管理職が10年以上新卒と中途採用を仕切っている経験から解説します。
中途採用での前職調査とは?
前職調査とは中途採用を実施する場合に、応募者の前職が履歴書や業務経歴書、エントリーシートの内容に合ったものなのか裏付けをとり、働きぶりや前職での評価だけでなく退職理由などを調べることです。
日本では労働者は手厚く保護され、一度採用されると簡単には解雇できません。
このため採用の際に、リスクの高い人材を避けることはとても重要です。
リスク人材の採用を避けることができれば数百万の損失を回避できるとの試算もあります。
現在は個人情報保護の意識が高まり、前職調査は簡単には行えなくなっています。
高職位者の採用や警備関係などでは採用プロセスに前職調査をあらかじめ組み込み、応募者の同意が得たうえで前職調査を行っている企業もあります。
前職調査は、採用企業の担当者が自ら調査を行うこともあれば、調査会社や興信所などを利用するケースもあります。
前職調査の結果で不採用・内定取り消しは?
前職調査結果からの不採用は結論から言うと可能です。
しかし条件があります。
前職調査をしていることが応募者の同意を得られている場合です。
応募者本人の同意を得ない場合に前職調査をして個人情報を得ると個人情報保護法に違反します。
応募者が無断で前職調査をされて個人情報が収集されていることを知った場合で不採用となると、訴訟などのリスクを抱えることになります。
同意なしの前職調査は違法か?
本人の同意がない場合の前職調査は違法となります。
違法とならないためには、募集要項に「前職調査を実施します」と明記し、会社説明会や面接の初期の段階で前職調査をすることを説明します。
可能であれば同意書をとっておきましょう。
前職調査の調査結果で内定取り消しは?
本人の同意がある前職調査の場合は、調査結果をもって内定取り消しは可能です。
一方で本人の同意がない前職調査の場合は、内定取り消しは難しいです。
内定を出したら「始期付解約権留保付労働契約」が成立すると判例に明示されています。
なので内定を出す段階では知り得なかった「重大な経歴の詐称」などがあれば企業側は内定取り消しは可能です。
しかし本人の同意がない前職調査自体が違法なので、違法行為をもって知り得た事実(経歴詐称)で内定取り消しはできません。
前職調査はどこまで調べる?重要なのは退職理由
前職調査で最も重要な事由は退職理由です。
採用担当者にとって大切なことは採用者がパフォーマンスを発揮することと同じくらい、リスク社員にならないことです。
前職でトラブルを起こして退社したり、問題社員として居心地が悪くなって退職した人材は企業側からすれば採用したくない人です。
前職調査では履歴書やエントリーシートに記載されている退職理由が間違いないのかを調べるのが調査ポイントとなります。
退職理由を調べる方法 リスク回避には調査会社を使う
まず、募集要項等で「前職調査をすることがあります」と明示しましょう。
しかし、募集の段階で前職調査をすることを明示するのに抵抗がある企業もあります。
明示しない場合は面接等で本人から退職理由を聞く、疑問があればその場で追加質問をして前職や関係者に確認しますと伝えれば問題ないでしょう。
そのうえでプロの調査会社を使って調査を実施します。
プロの調査会社を使うことで企業が負うリスクは少なくなります。
そこで調査した事実と面接で答えた内容が違えば、虚偽の回答をしたとして不採用の理由になります。
調査のプロに任せるほうが作業コストも減らせます
前職調査を入社後にする場合に拒否されたら?
無期雇用の契約を結んだ場合であれば前職調査を拒否されたといってすぐに解雇することは難しいです。
入社後に前職調査をする場合は採用時に最初から無期雇用契約を結ぶのではなく、有期の雇用契約を結びます。
契約を結ぶ段階で有期の雇用期間に前職調査を実施し適性を判断すると本人に通知しておきましょう。
そして前職調査や業務能力を含めて無期雇用に移行するのかを判断しましょう。
前職調査と身辺調査はどこまで許される?
採用担当者として10年以上中途や新卒の採用現場を取り仕切ってきました。
事実として大企業の多くは調査会社を使って応募者の前職調査を含む身元調査をしています。
調査会社は応募者の関係者や近所などの聞き込みをします。
しかし最近では、単身者であれば近所づきあいが希薄になっているので聞き込みでは有益な情報が得られることは少ないです。
戸建てを持っていたりマンションを持っている応募者であればある程度近所の評判は聞くことができます。
調査会社に依頼する利点としては、登記簿などの手続きを踏めば手に入る情報を迅速に手に入れることができることです。
また有力な調査会社であれば政治団体や宗教団体などの内部にもネットワークを持っているので、過去に政治活動や宗教活動をしていたことを知ることができる場合があります。
前職調査を受ける元の会社が退職者について答えることはほとんどありません。
なので前職調査は応募者の周辺での調査となり、悪評などはここでわかることがあります。
調査会社は違法にならない範囲で調査をしますので企業が負うリスクは少なくなります。
昔は応募者には伝えず調査をしていましたが、今は伝えないことは危険です。
しかし現場の実態としてはまだまだ調査をしていることを明示しないで調査をしている企業が数多くあります。
採用担当者のホンネとしては、好待遇の採用で倍率が高い場合は面接時に調査すると伝えて拒否したら不採用としたいところです。
応募者を集めるのに苦労する企業でリスク社員は抱えたくない場合は、採用ホームページの片隅に調査をすることを書いておきましょう。そこまで目を通す応募者は少ないです。
一部上場企業や地方でも地場の一流企業では高確率で調査を行っています
採用での前職調査はどこまで許される?まとめ
1 前職調査や身元調査はリスク社員を避ける効果が見込める
2 応募者に内緒で調査するのは違法
3 採用ホームページ等に明示することも有効
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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