放置すると損する確定拠出年金の退職・転職手続き

老後の生活を支える年金制度として導入する企業や利用する個人が増えているのが確定拠出年金です。

確定拠出年金は拠出された掛金とその運用収益との合計額をもとに将来の給付額が決定する年金制度で、
従来型の退職金制度から切り替える企業が増えています。

確定拠出年金は拠出する金額は確定していますが、受け取る年金額は運用成績次第で変化するため、
加入者に運用責任があり、退職や転職時に適切に手続きをしないと損してしまうこともあります。

この記事では確定拠出年金について、制度の概要と転職や退職時の手続き方法について、実際に確定拠出年金を導入している企業で入社時や退職時の手続きを管理している社会保険労務士資格を持つ大手企業の現役人事部管理職が解説します。

転職で放置すると損してしまう確定拠出年金

民間企業で導入が進んでいる（企業型）確定拠出年金とは、事業主や社員が拠出した掛金とその運用収益との合計額をもとに、将来支給される年金額が決まる制度です。

確定拠出年金制度の特徴は、社員が自分で運用方法を選べる点にあります。

厚生年金や国民年金などの公的年金や企業年金は、国や企業が将来に加入者に支払う年金額と予想される運用益に基づき保険料を集めて給付額を確定します。

一方、確定拠出年金では事業主や社員があらかじめ確定している掛金を拠出し、社員が元本確保型の預貯金や国債、株式、投資信託などから拠出金を運用する商品を選びます。

「積み立てた掛金全額が所得控除の対象となる」「積み立てた預貯金の利息や投資信託の運用益がすべて非課税となる」といったメリットがあります。

確定拠出年金制度には「企業型確定拠出年金」と「個人型確定拠出年金（iDeCo）」があります。

企業型確定拠出年金

企業型確定拠出年金に加入できるのは、企業型確定拠出年金制度を導入している企業の社員で厚生年金の被保険者です。

掛け金は5万5千円を上限に事業主が拠出します。（確定給付企業年金などのほかの企業年金を導入している場合は上限は半額の2万7500円）

企業の掛金が上限の5万５千円に満たない場合は社員も掛金を追加で拠出することができます。

個人型確定拠出年金（iDeCo)

「個人型確定拠出年金（iDeCo）」に加入できるのは、自営業者、厚生年金保険の被保険者（公務員、私学共済制度の加入者）や専業主婦（主夫）です。

掛け金は加入者本人が拠出し、限度額は自営業者であれば月額6万8000円、厚生年金保険の被保険者であれば月額2万3000円となっています。

パターン別　転職に伴う確定拠出年金の移管手続き

確定拠出年金は転職するとこれまで拠出し運用してきた資産を移し替える（移管）ことができます。

転職のために退職すると企業型確定拠出年金の加入者資格を失うので、加入者資格喪失通知が届きます。

この通知に資産を移換する手続きに必要となる「加入者口座番号」「契約番号」「企業番号」「資格喪失日」などが記載されています。

企業型確定拠出年金は、原則として加入者資格を失ってから6カ月以内に移換手続きが必要です。

転職先に企業型確定拠出年金がある場合とない場合について解説します。

パターン①　転職先に確定拠出年金制度あり

転職先に確定拠出年金がある場合は、資産を移管する手続きが必要になるので転職先の人事担当者に相談してください。

退職の際に送られてきた「加入者資格喪失通知」に記載されていた「加入者口座番号」などの必要な情報を記載して転職先の人事部を通じて手続きをします。

パターン②　転職先に企業型確定拠出年金制度がない場合

転職先の企業に企業型確定拠出年金がない場合は、個人型確定拠出年金（iDeCo）の口座を開設し運用していた資産をiDeCoに移換することができます。

その場合は、加入申込書のほか「個人別管理資産移換依頼書」を提出します。

また、転職先から「事業主の証明書」への書名・押印を受け、提出する必要もありますので、転職先に相談してみましょう。

すべて提出後、およそ1カ月半～２カ月半ほどで手続きが完了します。

iDeCoはさまざまな金融機関が取り扱っていますが、金融機関ごとに特徴、取り扱い運用商品、手数料などが異なりますので、自分で利用する金融機関を選んで必要な書類を取り寄せてください。

転職先の企業において、企業型年金制度や厚生年金基金を実施していて確定拠出年金がない場合も、個人型確定拠出年金（iDeCo）に移換することができます。

パターン③　個人事業主や公務員、専業主婦（主夫）になる場合

企業型確定拠出年金に加入していた人が退職して個人事業主や公務員、専業主婦（主夫）になった場合は転職先に企業型確定拠出年金制度がない場合と同様に、個人型確定拠出年金（iDeCo）に移換することができます。

転職に伴い確定拠出年金が損してしまうケース

企業型確定拠出年金の移換手続き期間は、資格喪失から6カ月以内です。

移管手続きを行わなかった場合、資産は自動的に売却・現金化され、国民年金基金連合会あるいは連合会より委託された運営管理機関の仮預かり口座へ移換されます。

これにより、掛金の拠出・運用指示・給付金請求ができなくなるのですが、仮預かり口座への移換手数料、および毎月の管理手数料は発生してしまいます。

また、この期間中は、「通算加入者等期間」に参入されないため、受給年齢が60歳より先延ばしになる可能性もあります。

移管手続きをしないと移管手数料と管理手数料が発生するため損してしまうことになります。

転職では要注意、確定拠出年金の移管手続き　まとめ

１　転職で移管手続きを放置すると手数料が発生し支出が増える

２　移管手続きは転職先の企業年金制度によって異なる

３　移管手続きの期限は6か月以内

最後まで読んでいただきありがとうございます。