採用して入社した後に試用期間を設ける場合があります。
試用期間では能力や人柄などを確認して社員として活躍できるのか、会社に馴染むことができるのかを見極めることになります。
試用期間内でこの人は戦力にならない、会社に馴染むことは難しいなどと判断して採用を取り消したい場合があります。
試用期間内に解雇する場合、法律上はどのような問題点があるのか?給与の支払いはどうなるのか?解雇予告は必要なのか?失業保険はどうなるのか?など様々な疑問がでてきます。
この記事では試用期間に採用を取り消して解雇したい場合の手順や問題点を社会保険労務士資格を持つ大手企業の人事部管理職がわかりやすく解説します。
試用期間14日以内は解雇予告は不要
「試用期間」とは、企業が採用した人に対して従業員としての適性の有無を見極めるための期間のことです。
試用期間内に解雇することは可能です。
しかし就業規則に定められている解雇事由に該当することが必要で、試用期間だからといって「社風に合わない」「ほかの従業員とそりが合わなそう」などの漠然とした理由で解雇することはできません。
解雇する場合30日以前に「解雇予告」をする必要がありますが、試用開始から14日内であれば解雇予告は不要です。
ただ14日という短い期間では、まだまだ改善の余地があると判断される可能性があり解雇理由の正当性が問われます。
解雇予告が不要である試用期間14日の数え方
試用期間の数え方は勤務日や出勤日ではなく暦日です。
試用期間に所定休日や有休休暇取得日があっても試用期間は進行します。
試用期間を定めた労働基準法
「試用期間」の雇用契約は法律的には「解約権留保付雇用契約」という契約になります。
採用の選考期間だけで企業が求めている成果を上げる能力があるか、自社の風土に馴染めるかを見極めることは簡単ではありません
このため実際に働いてもらうことで、企業側と労働者がお互いに適性を確認しあう期間です。
試用期間は必ずしも設けなければならないというものではありません。
試用期間の長さは3カ月~6カ月程度で設定している企業が多いです。
1カ月、2カ月という期間は適格性判断には短すぎるためほとんどありません。
試用期間については労働法において、いくつもの規定が存在しておりそれらに沿って適切に運営にあたらなくてはなりません。
上でもご紹介したよう、労働基準法21条には試用期間開始後14日以内での解雇について規定されており、同20条では試用期間が14日を超えた場合の解雇手続きについて規定されています。
試用期間の解雇について代表的な判例 新卒採用編
【事例①】
ある企業は、次のような問題行動が認められた試用期間を6ヶ月と定めた新卒採用者を入社後5ヶ月経過時点で解雇しました。
①入社当初の全体研修において、本人や周囲の者の身体や安全に対する危険行為を3件行い注意を受けた
②研修日誌の提出期限を守れないことが多かった
③時間のルーズで門限を破ったり消灯時間を守らないなどの行動で寝坊して研修を受講できないことがあった
④指導員から、パーツ表の確認不足、睡眠不足、集中力欠如を何度も指摘されていた
裁判所は、繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るだけでなく、睡眠不足については改善とはいえない状況であるなど「研修に臨む姿勢についても疑問を抱かせるものであり、今後指導を継続しても能力を飛躍的に向上させ技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかった」として、企業の行った解雇を有効と認めました。
改善にむけた指導がどのくらい必要という基準ですね
【事例②】
ある企業は、商品の発送業務、商品発表会の案内を全国の顧客にファックス送信する業務を行うことを期待して採用した者を、以下のような問題行動があったとして3ヶ月の試用期間中に勤務状況を理由として解雇しました。
①緊急の業務指示に対し、他に急を要する業務を行っているわけでもないのに、これに速やかに応じなかった
②採用面接時にはパソコンの使用に精通しているなどと述べていたにもかかわらず、パソコンの使用経験のある者にとって困難な作業ではないファックス送信を満足に行うことができなかった
③代表取締役の業務指示に応じないことがあった
業務指示に従わない姿勢が顕著であったり(①、③)、採用時に期待された能力からすれば容易に遂行できる業務をできなかったりした(②)ため、試用期間中の解雇が認められました。
期待していた能力がない場合の基準です
試用期間の解雇について代表的な判例 中途採用編
【事例①】
ある企業は、労務管理及び経理業務を行ってもらうために簿記の資格を有する者を中途採用しましたが、以下のような問題行動があり従業員として勤務させることが不適当であることを理由として、1ヶ月の試用期間満了の1日前に、当該中途採用者を解雇しました。
①当該中途採用者は全社員が参加する会議において、必要もないのに突然当該企業の決算書に誤りがあるとの発言をした
裁判所は、「組織的配慮を欠いた自己アピール以外の何物でもない」「従業員としての資質を欠くと判断されてもやむを得ない」「仮に事前に承知していたら、採用することはない労働者の資質に関わる情報というべきである」などと判示して、企業の行った解雇を有効と認めました。
本事例において、企業による注意や指導が行われた事実は認定されていません。
本事例のように、中途採用者の場合注意指導等がなくとも、採用時に想定していた「従業員としての資質を欠く」といえる具体的な事実がある場合、試用期間中の解雇が有効と認められた事例もあります。
従業員の資質のついての基準です
【事例②】
ある企業は、経営企画の業務を行うことを期待して採用した中途採用者を、以下のような問題があり勤務態度不良等を理由として採用後2ヶ月(試用期間6ヶ月)で解雇しました。
①上司の指導・指示に従わず、独断で行動に出るなど協調性に欠ける点があったこと
②配慮を欠いた言動で取引先や同僚を困惑させるなどの問題点が認められたこと
③企業の指導・指示にも従わなかったこと
④これらの問題点に対する本人の認識が不十分で改善の見込みが乏しいと認められること
以上の事実関係などを考慮して、企業の行った解雇を認めました
本事例において、裁判所は中途採用者の前述したような問題点は配置転換によって改善されるものではないとして、配置転換を検討しなかったとしても解雇が不相当となることはなく、配置転換を検討しなくとも、試用期間中の解雇が有効となった事例です。
中途採用の場合の能力・資質についての基準です
試用期間に解雇した場合の給料は?
試用期間中に解雇した場合も解雇までの給与は支払わなければなりません。
試用期間といっても正式な労働契約が結ばれているので、労働条件に合った給料を支払う義務があります。
試用期間中の給与ですが、本採用時よりも低い給与で雇用することはできます。
しかし、この給与が不当に低い場合はトラブルのもとになりますので注意が必要です。
地域別に定められた最低賃金を下回ったり、残業代や深夜残業代・休日出勤代などの手当を支給しなかったりすることのないようにしなければなりません。
試用期間といえども正式な雇用契約です
能力不足で退職勧奨の場合は会社都合?失業保険はどうなる?
試用期間中に解雇された場合や退職勧奨を受け入れた場合、離職理由は「会社都合退職」となります。
離職理由によって雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)の受給日数も変わってくるので、「会社都合退職」と正確に記入しましょう。
試用期間での解雇 まとめ
1 14日以内であれば解雇予告は不要、しかし正当な解雇理由が必要
2 試用期間であっても正式な労働契約と変わらないので賃金支払い義務は発生
3 能力不足等で試用期間に解雇しても離職理由は会社都合
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