採用の際に候補者の犯罪歴や逮捕歴はとても気になります。
近年犯罪も多様化し、一見犯罪とは無関係に見える人物が過去に犯罪に手を染めていたことはよくあります。
一方、人権意識の高まりから、過去の犯歴などを警察官が漏らすは許されなくなり、本人の同意なしに犯罪歴を調べることは社会的に許されず調べることも容易ではありません。
では、許される可能な範囲ではどこまで犯罪歴や逮捕歴を調べることができるのでしょうか。
10年以上採用担当をしている社会保険労務士資格を持つ大手企業の人事部管理職が、これまでの経験から得られ実際に活用している調査法を解説します。
採用で前科、前歴、犯罪歴・逮捕歴調査で許される範囲は?
日本では犯罪歴や逮捕歴は公開されません。
調査することは違法ではないのですが、公的機関から犯罪歴や逮捕歴の情報が公開されていないので調べることが困難です。
また日本では本人ですら自分の前科情報を照会することはできません。
逮捕されたことはないのに誤った逮捕情報が入力されていても確認することはできないのです。
逮捕歴や前科情報、犯罪歴を調べることは違法ではないのですがとても困難なことになります。
前科、前歴、犯罪歴、逮捕歴を調べる方法 ばれる可能性
可能な方法はまずネット上で検索するメディアリサーチになります。
新聞社やテレビ局のニュース記事であれば一定程度の信頼がありますので確度は高い情報です。
しかし報道される事件はよほどの大きな事件になりますので、新聞やテレビのニュース検索にひっかからなくても、犯罪歴や逮捕歴がないということにはなりません。
またネット上の情報は間違った情報や悪意のある情報も交じっていることは否定できません。
候補者の逮捕歴や犯罪歴がひっかかってきても、それが事実かどうかは曖昧なままになります。
採用担当者としてのある出来事をご紹介します。
5年ほど前に、新卒採用で最終面接の一段階前の選考で評価の高いある候補者がいました。
念のためメディアリサーチをかけたところ、学生時代の奔放な暮らしぶりがSNSで多く投稿されていました。
これだけで不採用とはなりませんが、最終面接後の雑談で話題をむけたところ、気が緩んでいたのかSNSでの投稿と同じような話題を「武勇伝」のように話してきて、不採用としたことがあります。
メディアリサーチは不確かながら人間性を探る端緒にはなり得ますので、メディアリサーチは必要と考えています。
メディアリサーチ以外には、刑事事件の訴訟記録を調べる方法もあります。
刑事裁判は誰でも傍聴可能ですし、裁判所には訴訟スケジュールと当事者名が書いてあるので、毎日日本中の裁判所を調べれば犯罪歴は追えますが、現実的には不可能です。
民間企業が受検者の前科・前歴・犯罪歴・逮捕歴を調べるのは用意ではなく、マスコミやネット上に流されたた場合を除けばばれる可能性は低いです。
〇前科と前歴の違い
前科 | 有罪判決 | 情報公開なし | |||||
前歴 | 前科に加え起訴猶予、不起訴 | 情報公開なし |
採用でのネガティブチェック(バックグラウンドチェック)
採用でのネガティブチェックはバックグランドチェックともいわれ、応募者のマイナス要素や経歴に偽りがないか、反社会的な背景がないのかを調べることです。
こうしたバックグランドチェックはこれまでも水面下で行われてきました。
私の会社でも30年以上、最終面接に残す人物を決める際に調査機関に依頼してバックグランドチェックをしています。
最近では、採用活動におけるプライバシーポリシーで「バックグラウンドチェック、その他確認手続きを通じて、採用選考に関連した情報収集を行う」と公表している企業や「委託先によるバックグラウンドチェックなど、追加情報を取得するケースがあります」と記載している企業もあります。
以前は水面下で行っていたバックグランドチェックですが、すでに行っていることを隠さない時代になっているといえます。
採用で「ブラックリスト」は影響するか?
「ブラックリスト」といっても、クレジットカードが作れないいわゆる金融「ブラックリスト」と採用市場における「ブラックリスト」を分けて解説します。
金融のブラックリスト
企業によっては影響します。
一定以上の実績のある調査機関にバックグランドチェックを依頼している場合、金融ブラックリストはひっかかります。
信用を重んじる金融機関や大手企業などでは金融ブラックリストに該当する人材はふるい落とされる可能性があります。
採用のブラックリスト
企業同士で要注意人物情報を共有することは法律で禁止されています。
しかし、転職の場合は転職エージェントごとに要注意人物をリストアップしています。
以下のような人物はリストに名前が載っている可能性があります
- 転職エージェントに高圧的な態度をとる人
- 反社会勢力とのかかわりの可能性がある人
- 登録事項に虚偽があったり重要なことを隠す人
- 内定承諾後に辞退した人
- 連絡がとりにくい、社会人としてのマナーに反する人
- エージェントから情報を得た後に、別の転職エージェントに鞍替えしたり個別の就職活動を行った人
転職エージェントがお互いのブラックリストを共有しあうことは、法律で禁止されていて、発覚した場合は有料職業紹介免許がはく奪される可能性がある高リスクな行為なので、エージェント同士での情報共有はあり得ません。
犯罪歴や逮捕歴、公務員の採用では?
公務員の場合欠格事由が定められています。
禁固以上の前科があると公務員を受験することはできません。
しかし、刑の執行が終わったり、執行猶予期間が過ぎた場合は欠格事由には該当しません。
単なる犯罪歴や逮捕歴は欠格事由にはあたらないので公務員を受験することは可能です。
前科があるとなれない職業は?
禁固刑以上の前科がつくと保有している資格の停止をうけたり、新たに資格を取得するのを制限されたりするため、公的な資格を必要とする仕事ができなくなる職業があります。
弁護士や公認会計士、弁理士、教員は資格を必要とする職業ですが、禁固刑以上の前科があることが資格の欠格事由です。
他の国家資格でも、禁固刑以上の前科があることが欠格事由になる資格がありますので、試験を受験する場合は欠格事由をよく確認する必要があります。
ただし、一度禁固刑以上の前科がついても、資格や職業に対する制限が一生継続するわけではありません。
刑の執行が終わったり執行猶予期間が経過したりすると、資格制限が解除されたり失効した資格を再度取得したりすることが可能な場合もあります。
なお、警備員は国家資格ではありませんが制限を受け、刑の執行が終了してから5年間は業務につくことはできません。
この他にも以下の資格は、前科があると制限を受けます。
国家公務員、地方公務員、自衛隊員、保育士 旅客自動車運送事業者、社会保険労務士、社会福祉士・介護福祉士、行政書士、司法書士、不動産鑑定士、宅地建物取引士、建築士、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、保険師、助産師、調理師、等
なお前歴や逮捕歴は、禁固刑以上の刑罰には該当しないため資格制限はありません。
前歴があるとなれない職業
前歴が外部に公開されることはありません。
また前歴があるからといってなれない職業はありません。
前歴の有無を履歴書やエントリーシートの賞罰欄に記入する義務はありません。
なぜなら前歴は処罰ではないので「罰」に該当しないからです。
採用での反社チェックと犯歴照会センターとは?
反社チェック(反社会的勢力【暴力団や半グレ集団など】とのかかわりを持っていないかの確認)をするために公的機関から情報を得ることはできません。
民間で可能なことはメディアリサーチをかけることと、調査会社は独自のルートをもっているのである程度実績のある調査会社に依頼することです。
警察官が職質(職務質問)などの際に、犯罪歴の有無を問い合わせる「犯歴照会センター」があります。
職務質問をうけた場合、警察官などの捜査機関は前科を照会する「犯歴照会センター」で前科の有無や内容を照会することができます。
しかし、警察官などの捜査機関以外は問い合わせることはできません。
採用で前科、前歴、逮捕歴の調べ方 まとめ
1 前科は有罪判決以上、前歴は起訴猶予は不起訴も含まれる
2 採用の場合メディアリサーチは必要
3 バックグランドチェックを実施する企業は多数
コメント
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