人を採用するときに、「内定を出す人は健康であってほしい」と思うのは企業側のホンネかもしれません。
同じ能力なら持病などがない人を、そう考えてしまいがちですが、採用段階での健康診断の実施は要注意です。
合理的、客観的に必要性が認められない健康診断を実施することは法律上認められていないからです。
合理的、客観的に必要のない健康診断の結果をもって合否の判断をすることは法律違反になります。
健康診断を実施できるのは採用が決定したあと、入社時になります。
では、客観的、合理的に合理性が認められる健康診断はどのようなものか、
入社時の健康診断で必要な項目は何か、実施できる医療機関はどこになるのか、そして費用負担はどうなるのでしょうか。
またうつ病などの精神疾患の申告義務はあるのでしょうか?
この記事では採用での健康診断の注意事項について、10年以上新卒採用と中途採用を担当している社会保険労務士資格を持つ大手企業の人事部管理職が解説します。
採用での健康診断で内定取り消しは?
選考段階での健康診断は客観的、合理的に必要性が認められる範囲でしか実施することはできません。
ではどのようなケースが客観的、合理的に必要と認められるのでしょうか。
厚生労働省によれば以下のケースでの健康診断は客観的、合理的に必要性があるとされています。
- 運転・配送業務の求人の際、失神等の発作が生じないか確認
- アレルギー物質を取り扱う業務において、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を確認
上記の場合に、健康状態が募集している業種や職種に対する適性があるのかを判断する必要があるとされ、結果を合否の判断材料に加えることはできます。
血液検査等の「健康診断」は、応募者の適性と能力を判断する上で必要のない事項が記載されている可能性があります。
本来は意図していなかったとしても、知ってしまった結果として就職差別につながってしまうこともあります。
また、仮に健康診断の結果が合否に影響は与えず、面接などのほかの選考で不採用だったとしても、応募者が健康診断の結果で不採用だったと受けとめてしまって、採用差別だと訴え出られてしまうこともあります。
そのため、選考段階で健康診断を実施することや、一律に健康診断結果の提出を求めることは十分に注意が必要です。
うつ病などの精神疾患の既往歴を聞くのは最も避けなければなりません。
まして内定後にうつ病などの精神疾患を理由として内定取り消しをすることは許されません。
面接で健康状態を聞くのも客観的かつ合理的に必要な場合に限られます
採用での健康診断はNGでも雇入れ時の健康診断が義務付けられる
選考段階での健康診断はNGですが、選考を終えたら健康診断を実施する義務が生じます。
労働安全衛生法では雇入れの3カ月以内に「雇入れ時の健康診断項目」のすべての健康診断を実施することを義務付けていますが、その結果を証明する書面を提出したときはその限りでないとされています。
つまり、雇入れ時の健康診断は、雇入れの3カ月前までに受けた健康診断か雇入れ後健康診断のいずれでも可能となります。
雇入れ時の健康診断は、採用した社員の適正な配置や、健康管理のために実施するのが目的です。
健康診断は選考時に実施することを義務付けたものではないので、応募者の合否を判断するためにするものではありません。
雇入れ時の健康診断結果をもって解雇などの不利益取扱いはNGです
雇入れ時の健康診断の診断項目
既往歴及び業務歴の調査
自覚症状及び他覚症状の有無の検査
身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
胸部エックス線検査
血圧の測定
貧血検査
肝機能検査
血中脂質検査
血糖検査
尿検査
心電図検査
(労働安全衛生規則第43条)
雇入れ時の健康診断の費用は実施を義務付けられている企業側が負担
健康診断を実施する義務が課されているのは事業者、つまり企業側になります。
実務的には内定者に入社日の3か月以内に医療機関で健康診断を受けてもらい、診断書と領収書を提出してもらい事後に費用を精算します。
ほとんどの医療機関で雇入れ時に健康診断を実施してくれますが、念のため事前に電話などで雇入れ時健康診断を受けることができるか確認しておいてください。
雇入れ時の健康診断で内定者はうつ病などの精神疾患の申告義務はあるか
内定者は企業から聞かれた項目以外の申告義務はありません。
企業側が聞くことができるのは上記に定められた健康診断項目のみなので、うつ病などの精神疾患については、企業側は既往歴を聞くことはできません。
うつ病などの精神疾患の既往歴を聞くことは就職差別につながる可能性があります。
このため不適切な質問とみなされる可能性が高く、こうした質問をすることは非常にリスクが高いといえます。
答えたくなければ無理に答えなくても良いと内定者に伝えた場合でも、内定者にしてみれば質問に答えないことで入社後の不利な扱いを受けるのでは?と考えてしまい、回答義務があると受けとめられてしまいます。
無理に精神疾患の既往歴を聞いて、内定取り消しやほかの内定者と違った扱いをすることは許されません。
精神疾患の既往歴を知ってしまった場合は、精神疾患の既往歴があったうえで安全に働く環境づくりをしなければなりません。
うつ病などの精神疾患では業務に堪えることができないと考えられる場合は、あらかじめ産業医に相談し、精神疾患でも働ける部署に配属するなどの対応が必要になります。
採用での健康診断 まとめ
1 内定前に健康診断の実施や診断結果の提出を求めるのは一部の特例を除きNG
2 内定後には企業側に健康診断実施の義務が課せられる
3 精神疾患などの既往歴を聞くのはハイリスク
4 うつ病などの精神疾患で内定取り消しは許されない
最後まで読んでいただきありがとうございます。
コメント